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人生は旅。 
知らない街を歩いてみたい 
知らない海をながめていたい 
どこか遠くへ行きたい 
遠い街遠い海
夢はるか一人旅。

けれど、
遠くへ行かなくても旅はできます。

たとえば、
近所を散歩して知人に出会い
雑談するのも旅。
誰かに読んでもらいたくて、
こうやって文を綴るのも
私にとっては旅。

さて、どこまで放浪できるか ……






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 014  2019年9月29日

 加藤剛 〜正統派二枚目俳優で演技派〜




1970年代の正統派二枚目俳優(イケメンという言葉は無く、二枚目とか男前とかハンサムと表現されていた時代)といえば、いろいろご意見もあろうかと思うが、私の中では、田村正和、竹脇無我、そして加藤剛の3人である。

 田村正和、父は戦前からの映画スター阪東妻三郎(元は歌舞伎役者、本名 田村 傳吉)、兄は田村高広、弟は田村亮という俳優一家で育つ。何といっても「眠狂四郎」が彼の代表作である。「眠狂四郎」といえば映画では大映で市川雷蔵の当たり役となりシリーズ化され、雷蔵の没後松方弘樹が継いだ。テレビでも平 幹二朗や片岡孝夫(現 仁左衛門)が演じた。
 「眠狂四郎」の原作者柴田錬三郎は、「田村正和こそイメージ通り」と彼の容姿や演技を絶賛した。田村正和は彼が20代の時から、なんと70代になってもこの役を演じた。
 他にも、40代で「パパはニュースキャスター」、50代で「古畑任三郎」といったコミカルな役にも挑戦した。



 竹脇無我、父は竹脇昌作(森繁久彌とはNHKアナウンサー1期の同期生になる)、代表作は、森繁久彌と共演した「だいこんの花」シリーズでの 永山誠役、木下惠介アワー「二人の世界」(元ジャニーズの、あおい輝彦が歌った主題歌が大ヒットした)での宮島二郎役(妻役は栗原小巻)、大河ドラマ元禄太平記での柳沢兵庫役など数多い。私は東芝日曜劇場「女と味噌汁」の最終回で、これまで数々の二枚目俳優が演じる男性を袖にしてきた池内淳子演じる粋な芸者「てまり姉さん」と結ばれる、お米好き男の役が一番印象に残っている。



 田村正和も竹脇無我もたしかに良い役者だが、私には二人とも演技派とは思えない。しかし加藤剛は間違いなく演技派である。加藤剛といえば、出世作は「三匹の侍」(丹波哲郎の後釜)、代表作は「大岡越前」(榊原伊織役の竹脇無我と共演)、大河ドラマ「風と雲と虹と」では主役の平将門を演じている。(緒形拳が藤原純友役)


 

 ここでは、私にとっての加藤剛主演の代表作2作品を紹介する。
 まずは1974年公開の映画「砂の器」である。加藤剛の役は作曲家にして天才ピアニストの和賀英良。恋人(島田陽子)を妊娠させるも、いともあっさり捨ててしまい、有力政治家を後ろ盾にしたいがため、その娘と婚約する、実に悪い奴。いつも沈着冷静で口数が少なく、過去の深い傷を背負っているのだろうと思わせる渋い演技は、どこか眠狂四郎と通じるものがある。いわゆるニヒルでかっこいい!刑事役の丹波哲郎(抑えた演技で好演)や森田健作(初めての刑事役)に比べると登場回数も台詞も少ないのだが、その存在感は他の名優たちを圧倒していた。
 圧巻なのは、警察の捜査本部での会議、ホールでのコンサート、回想シーンとして描かれる親子の放浪の旅が交互に描かれる、約40分のラストシーンだ。和賀英良が作曲した新作「宿命」を演奏するシーンでは本物の東京交響楽団が出演している。
 コンサートで指揮を執りピアノを演奏する和賀英良は場面ごとに、緊張、怒り、悲しみ、憤り、安堵、厳しくもあり優しげでもある表情を巧みに見せる。台詞は無い。改めて加藤剛の凄さ、名演技に魅せられる。



 加藤剛といえば時代劇俳優のイメージが強いが、このように現代劇でも素晴らしい演技をみせた。「砂の器」は映画化の後5回テレビドラマ化され、和賀英良役を、田村正和・佐藤浩市・中居正広・佐々木蔵之介・中島健人が演じたが、どの俳優も加藤剛の重厚さには遠く及ばない。私にとって和賀英良イコール加藤剛である。

 次は1981年度テレビドラマ「関ケ原」である。加藤剛は豊臣秀吉亡き後の豊臣政権を必死で守ろうとした石田三成役である。このドラマは司馬遼太郎の原作を忠実に映像化し、そのまま映画化しても大河ドラマにしてもまだもったいないほどの超豪華キャストであった。(竹脇無我も細川忠興役で出ており、妻の細川ガラシャ役は栗原小巻)この豪華俳優陣の中でも、本多正信を演じた三國連太郎と加藤剛が最も強く印象に残っている。

 石田三成はそれまで「徳川家康に無謀な戦いを挑んだ愚か者」もしくは「太閤亡き後の実権を握ろうとした奸臣」として描かれがちだった。しかしこのドラマは司馬の原作通り「豊臣家への忠義に熱い正義の人」として主人公に据えた。本格的に三成を主人公に据えて描いたのはこのドラマが初めてである。ただし、一方的に美化するのではなく、融通のきかない性格から敵を増やし破滅していく過程を客観的に描く視点も、原作に忠実である。逆に、徳川家康(森?久彌)に関しては司馬の原作と異なり、「陰謀家の狸オヤジ」という描き方には終始せず、関ヶ原の戦いの後に豊臣家の忠臣としての三成に敬意を表して涙するといった、懐の大きい人物としても描いている。

 秀吉の生前も死後も、五大老筆頭の徳川家康には敵意をむき出しにし、誰に対しても敬意をあらわさず無遠慮で、「へいくわい者」と呼ばれた三成。「人は結局おのれの利害で動くもの」と悟っている家康に対し、「豊臣政権の存続こそが正義。人は義の心で動くもの」と信じる三成。頭脳明晰で家康の本質をいち早く見抜くが、人の心の弱さや痛みには鈍感な三成。愛妻家で家族思いであるが、好きな女を側室にすることも平気な三成。そんな人間的魅力に溢れる三成を加藤剛は熱演した。
 関ケ原の合戦の後敗走し伊吹山で捕らわれた時も、大垣城の城門前で縄をかけられ晒し者になった時も、三条河原で打ち首にされる時も、決して取り乱さず、豊臣政権の筆頭奉行としての気品と威厳を失わない態度を見事に演じた加藤剛。さすがである。

 これ以前にも、大河ドラマ「太閤記」では石坂浩二が、「黄金の日々」では近藤正臣が、これ以後にも、「おんな太閤記」では宅麻伸(少年期は坂上忍)が、「徳川家康」では鹿賀丈史が、「独眼竜政宗」では奥田英二が石田三成を演じたが、やはりどの俳優も加藤剛には遠く及ばない。どの俳優にも気品と威厳が感じられない。強さと弱さを併せ持つ人間的魅力に欠ける。

 私はドラマを見終わってから、原作「関ケ原」全3巻を読んだ。石田三成が出て来るともちろん加藤剛の顔が浮かんだ。他の小説を読んで石田三成が出てきてもやっぱり加藤剛の顔が出てくる。石田三成イコール加藤剛は今も変わらない。

 加藤剛、昨年6月逝去、80才。健康維持のため、酒も飲まずたばこも吸わなかったという。枯れた演技の加藤剛をあと10年、90才ぐらいまで見たかった。残念である。






 
この演奏会、【放浪楽人】も、ちょこっと演奏いたします。