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大河ドラマ「いだてん」を違った視点で眺めると、
現在が見えてくる?!
2019年のNHK大河ドラマ「いだてん」は、嘉納治五郎(柔道・オリンピック命)金栗四三(陸上・マラソンひとすじ)田畑政治(水泳・金メダル大好き)、オリンピックにまつわるこの3人の「オタク」が主人公の話であったが、毎回時空が飛び交って展開がわかりにくく、登場人物が多過ぎて覚えにくく、要するに物語としてはつまらなく、結果として大河史上最低の視聴率だったそうである。
金栗四三 嘉納治五郎 田畑政治
(中村勘九郎) (役所広司) (阿部サダヲ)
このドラマはNHKが東京オリンピックを盛り上げるための政治的な忖度(そんたく)大河と私は解釈しており、したがって最低視聴率もさもあらんと思っていたが、ドラマが終わって3カ月経って振り返ってみると、重大な「メッセージ性」があったことに気が付いた。
ドラマの最終回。1964年東京オリンピックの閉会式はそれまでの慣例を打ち破る画期的なものであった。参加人数が膨れ上がった、大会終了の開放感に満ちた選手が酒を飲んでいた等、数々のハプニングが重なり、閉会式の入場列はきちんとした列にならず、自由気ままに入場する形になった。
しかし、かえってそれが良かった。国籍、人種、性別、宗教、ありとあらゆる壁を「スポーツ」のもとに乗り越え、選手たちが笑顔で手と手を取り合い入場する様子は、まさに「平和の祭典」としてのオリンピックを具現化したものであり、この閉会式は国際的に高く評価された。現在のオリンピックの閉会式でも、この形を踏襲している。
田畑政治は選手たちの生き生きとした笑顔弾ける様子を見て、思わず涙ぐんでしまう。そこへ亡き嘉納治五郎の幽霊が現れ、田畑にこう問いかけるのだった。
「これが、君が世界に見せたい日本かね?」
話は1940年の幻の東京大会を描いた37話にさかのぼる。
1940年東京大会は開催が決まったものの、日中戦争の勃発などで国際世論が日本に対して厳しくなっていた。
嘉納は東京大会に対する反対意見が強まる国際世論を変えるために、エジプト・カイロで行われるIOC総会に出席を決意する。田畑に一緒に行ってほしいと頼むが、田畑はそれを断る。田畑は、「スポーツが政治利用されてしまう現状では日本にオリンピックを開く資格はなく、ここはまず返上して、日本は平和になってからまた招致すればいい」と叫ぶ。そして、嘉納に対してこのように問いかける。
「いまの日本は、あなたが世界に見せたい日本ですか?」
しかし嘉納が返上に傾くことはなく、カイロに向かいひとまず返上阻止に成功するが、その帰国途中の船の中で死去する。結局東京大会は開催されることなく、幻の五輪となった。
最終回で、幽霊となった嘉納に「これが、君が世界に見せたい日本かね?」と改めて問いかけられた田畑は、「はい」と、微笑みながら胸を張って答える。
そういえば「いだてん」では、戦前の日本の偏ったナショナリズムや負の部分に踏み込んできた。
関東大震災の朝鮮人虐殺を示唆するシーン。
朝鮮出身であるにも関わらず日本の植民地支配のため、日本代表として日の丸と君が代をバックにメダルをもらうことになったマラソンの孫基禎(ソン・ギジョン)選手と南昇竜(ナム・スンニョン)選手のエピソード。
オリンピックの舞台となるはずだった『明治神宮外苑競技場』(この跡地に国立競技場が建てられた)から学徒動員で戦地へ向かい死んでいった若者の悲劇。
満州における中国人に対する加害行為、など。
戦前戦中の日本社会を描く以上、これらは当然出てくるべきシーンで、それを描くことを「踏み込んだ」と言わざるを得ない今の状況は深刻な問題だ。安倍政権や小池都政下で右傾化と歴史修正主義的な風潮が進み、史実通りの戦前戦中描写が難しくなっているなか、大河ドラマというゴールデンタイムの枠で、戦前戦中の日本の負の部分を描いたNHKや脚本家宮藤官九郎の姿勢を私は高く評価する。
「いだてん」が描いてきた様々な問題は過去の出来事と捉えるだけではなく、今、日本で起きている問題につながっていると捉えるべきなのである。
「いまの日本は、あなたが世界に見せたい日本か?」
これは、2020年東京五輪を開催しようとしている現在の日本に向けられた問いである。