ゴジラは怖い。神の火を盗んだ我々を罰しに来るのだから怖い。
                                        彼は繰り返し首都に向かい、権力の中枢を破壊しようとする。
                                        これが意味するところを噛みしめるべきである。


























































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 原発推進論 − 不勉強を傲慢さで補う屁理屈 その4
              (平成28年4月18日) 


止まったままの新造船


 『開栄丸』という船がある。 使用済み核燃料の運搬船である。総トン数5000トン、47億円の建造費をかけ2006年に進水・竣工した。この船を所有する『原燃運輸株式会社』のホーム・ページには、白波を蹴立てて進む『開栄丸』の俯瞰写真がある。いかにも、日々荷物を運んでます、仕事してます、という感じの絵である。【写真Aの中段】

 





  ← コレ【写真A】








 ところがこの船、就航して十年になろうというのに未だ仕事らしい仕事をしていない。室蘭湾の北岸JR室蘭本線『本輪西駅』あたりの埠頭に係留されたままだ、という情報を得たので、グーグル・マップで調べたらあっさりと見つかりました。航空写真【写真B】とストリート・ビュー【写真C】を貼っておきます。船首の船名にぼかしが入っていますが、間違いないですね。

 
       【写真B】                  【写真C】

 運搬実績を確認しておく。就航した年とその翌年に合計15.6トンの使用済み核燃料を、福井県敦賀市の『ふげん』から茨城県東海村まで3回に分けて運んだ、終わり。これだけ。正確に言うともう1回、2009年に大飯原発から東海村まで0.46トンのサンプルを運んでいるが、以来今日に至るまで7年間仕事はゼロ。にもかかわらず、常時13名の乗組員がいて、年4ヶ月の整備期間にはこれが17名に増える。ちなみにその平均給与は123万円なんだって(月収だよ)。
 仕事がないのに『原燃運輸』がのんきに構えているのは、年間12億円の維持費を文部科学省が負担しているから。まこと「原子力村」においては非常識が常識となる、の一典型である。「使用済み核燃料のリサイクル」は一向に進まないのに、「利権取り込みのリサイクル」だけは常に臨界状態にあり無限増殖しているようだ。
 

報道姿勢がおかしいぞ −−− 予算の無駄づかい だけが問題か?


 これがニュースとして報道されたのは昨年秋のこと。朝日・毎日・東京の紙面が今でもネットで読めます。読売・サンケイの記事が見当たらないのは、原発推進派にとっては見て見ぬふりをしたい記事内容だから当然のことか。ホーム・ページへ転載しなかっただけなのか、そもそも本紙でも取りあげなかったのかは、よく分からない。別にどっちでも良いけれど。
 このニュース・ソースは政府の『行政改革推進会議』らしい。これにはかなりこだわる。これより前に野党とかジャーナリズムからの指摘があったかも知れぬが、我々がニュースとして知るのが政府発の情報であったとするなら、さびしい限りである。
 時系列で並べるなら、河野太郎氏のブログに「行革推進本部で来年度の概算要求のヒアリングが進む」という書き出しの記事が載るのが9月20日、東京新聞の記事になるのが10月29日、文部科学省が開栄丸の使用中止を決め予算案の改定案を出すのが12月末である。野党・ジャーナリズムは蚊帳の外、単なる傍観者であったことが丸わかりである。ちなみに10月7日、河野太郎氏が入閣すると同時に、このブログ記事は抹消されている。今でも読めるのは、あちこちにコピペされているからである。その一例が次のURL。
    http://www.huffingtonpost.jp/taro-kono/nuclear-ship_b_8164306.html

 河野太郎氏のブログは「来年度の概算要求のヒアリング」からの報告であるから、当然「予算が有効に使われているのか」という視点から書かれている。つまり文部科学省の予算案を批判するという形になっている。各新聞の報道もこれに添ったものである。まぁ、こんな無駄づかいをするなんて、という論調である。私にはこれが不満である。なぜならこの事例は、政府と原子力村が原発を推進することの拠り所としてきた基本的な考え方(青写真と言って良い)がすでに崩壊していることを、如実に示しているからである。新聞各紙は、なぜそこまで踏み込んだ主張を展開しないのだろうか。

核燃料リサイクルはすでに破綻している


 別に難しい話ではない。少し経過をまとめるだけで、このことが良く分かる。
 以前『ひのうら丸』という船があった。この船が、福井県敦賀市の新型転換炉『ふげん』から出た使用済み燃料を、茨城県東海村の再処理工場に運搬していた。150トンの運搬を終えた時点で廃船となる。その代替として建造されたのが『開栄丸』である。
 ところが先に述べた3回の運搬の後『新潟県中越沖地震』が起こる。その影響で東海村の再処理工場の耐震補強が必要となり、以降使用済み燃料の受け入れが出来なくなった。『開栄丸』は海外に輸送するために必要な装備がなされていなかったので、使用済み燃料を受け入れてくれるフランスへは運航できない。それで運航停止となる。
 これで『開栄丸』の用途がなくなったわけだが、文部科学省は次の4つの理由で存続させた。
1、東海村の再処理工場が復旧したら、『ふげん』のプールにある残り70トン(110トンという報道もある)を運ぶ必要がある。
2、『もんじゅ』が稼働したら、燃料の運搬が必要となる。
3、『六ヶ所再処理工場』が完成したら、燃料の運搬が必要となる。
4、電力会社が希望したら、その使用にも供用できる。

 しかし周知のように、この「 …… () …… したら(●●●)」という希望的観測が、ことごとく達成不能となっている。
1、東海村は再処理工場の廃止を決定。それ以外に国内では、使用済み燃料を受け入れてくれる施設はない。
2、『もんじゅ』の稼働は見通しが立たない。『もんじゅ』の "歴史" を見ると悲惨としか言いようがない。工事着工は1983年、今日にいたるまで稼働したのは1994年の250日のみ。(ただしこれは稼働であって、実際に発電したのは100日程度か?) 事業費累計は1兆円を超えている。
3、『六ヶ所再処理工場』の完成も目処がたたない。こちらの "歴史" も悲惨そのものである。着工は1993年。「アクティブ試験」の終了予定は2009年2月であったが、その前月になってから終了予定の延期を発表。その後2回延期を繰り返すが、終了予定のアナウンスが出来ないままだ。「計画上の完成時期」は 2010年10月の予定であったが、すでに4回延期となっている。こちらの事業費累計は2兆円を超えている。
4、上記の0.46トンのサンプル輸送が唯一の実績。

 惨憺たるありさまである。事業計画のうち実現したものが何一つないのだ。すでに予算の無駄づかいというレベルの話ではなくなっている。
 原発推進派の最大の理論的よりどころは「原発は確かに使用済み核燃料を出すが、これはリサイクルが可能で再利用できる、最終的なゴミの量はうんと少ないものだ」というものであった。このリサイクル実現のための設備が『もんじゅ』と『六ヶ所再処理工場』であったはず。しかし両施設とも進捗を云々できる状況ではない。20年以上停滞したまま何の実績も上げていない。いつまで待っても実現の見通しすら立たない。飛車・角、共倒れのままなのだ。

廃炉すら実行できない現実 −−− 2013年1月

 

 冷静に現実を見てみよう。核燃料のリサイクルどころか、停止原発の廃炉すら満足に出来ない状態ではないのか。
 『ふげん』はいつの間にか『原子炉廃止措置研究開発センター』と名前を変えている。ホーム・ページを見ると「復水器内部の解体作業」とか「水中レーザ切断試験」とかの写真が次々と現れて、いかにも「廃炉作業が着々と進んでいます」というイメージを振りまいている。だが、実際はどうなのか?
 2013年の1月に『ふげん』は一部の解体作業を報道陣に公開している。その時の『福井新聞』の記事をそのまま引用する。

(2013年1月24日)
〈標題〉 廃炉に750億円、ふげん現場公開 原子力機構33年度終了目指す
〈本文〉 日本原子力研究開発機構は23日、廃炉を進めている原子炉廃止措置研究開発センター(ふげん)=福井県敦賀市=で、タービン建屋内での復水器の解体作業を報道陣に公開した。
 新型転換炉のふげんは2003年に運転を終え、08年に廃炉作業に入った。33年度の作業終了を目指している。廃炉作業にかかる費用は750億円。廃炉作業で出る廃棄物約36万1800トンのうち、これまでに720トンを撤去した。
 タービンを回した蒸気を冷やして水に戻す復水器をビニールシート越しに公開。高さ15メートル、幅7メートル、奥行き15メートルの構造物が左右対称に二つあり、左側がすっぽりなくなっていた。復水器の解体はあと3年かかる。ビニールハウス内で作業員が高圧水を使い、解体された配管や弁などを除染している様子も公開した。
 原子力機構は、廃炉作業で得られた技術を東京電力福島第1原発の事故処理などに生かしたい考え。原子炉本体は放射線の遮へいのため上部にプールを設け23年度から解体する計画。レーザーを使い遠隔操作により切断する技術開発を進めている。
 ふげんには466体の使用済み核燃料が残っており、東日本大震災などの影響で東海再処理施設(茨城県)の稼働が遅れたため、搬出は先延ばしされた。原子力機構は、早ければ13年度後半にも搬出を再開する見通しを示した。

   
http://www.fukuishimbun.co.jp/localnews/npp_restart/39520.html

 08年に着手して33年で完了というのなら、廃炉作業期間はのべ25年ということだ。均等割りするなら1年で4%づつ処理・撤去していくことになる。この作業公開の時点で丸5年が経過しているから、20%完了していなければならない。ところが実績は「36万1800トンのうち720トンを撤去した」に留まるのだから、完了したのはたったの0.2%! 何の説明も無くて良いんですか?「計画の20%に対して実績は0.2%」だよ、達成率1%。
 とにかく廃炉作業は鋭意進めております、という「格好」だけでも見せたかったのだろうか。このペースで行くなら処理・撤去の完成は2,500年後になる。

 使用済み核燃料の方はどうか。先に述べたように『開栄丸』による搬出は07年で搬出がストップしている。それからこの解体作業の公開までに5年以上経っている。ならば、別の方法・別のルートでたとえ1トンでも搬出したのか? 否、70トン(ここでは466体と表現されているが)の使用済み核燃料は、プールの底に沈められたままだったのだ。この70トンはおとなしく眠っているのではないぞ。常時大量の電力を使用して冷却し続けなければならないのだ。
 「原子力機構は、早ければ13年度後半にも搬出を再開する見通しを示した」らしいが、言い訳にしか聞こえない。今年じゅうには再開します、だと? 5年間手の付けられなかったことが、なぜ直ぐに出来るのだ。記者団の質問に口から出任せで答えただけだろう。その後の記事で検証してみようじゃないか。

繰りかえされる先送り、本音の露呈 −−− 2015年1月

 

 同じ『福井新聞』のちょうど2年後の記事から引用する。

(2015年1月8日)
〈標題〉ふげん燃料再処理のフランス委託は「間もなく」、廃炉完了に影響なし 
〈本文〉日本原子力研究開発機構の松浦祥次郎理事長が7日、年頭のあいさつのため福井県庁を訪れ、西川一誠福井県知事と懇談した。懇談後の記者会見で、松浦理事長は作業中の原子炉廃止措置研究開発センター(ふげん)=福井県敦賀市=の使用済み核燃料をフランスに委託して再処理する計画に変更したことについて「間もなく相手方との契約内容が固まる」と述べ、年度内には計画を示せるとした。燃料搬出の工程は、2033年度の廃炉完了時期に影響を与えないという。
 原子力機構は昨年9月、ふげんの使用済み燃料などを再処理していた茨城県東海村の再処理施設を廃止する方針を表明。ふげんに貯蔵している燃料466体はフランスの企業に委託して再処理する計画に変更していた。廃炉工程では燃料搬出の完了を17年度としているが、県はあらためて工程を示すよう求めている。
 松浦理事長は、燃料搬出について「廃炉完了の時期に関係ないほど早く問題は解決する」としたが、フランスへの輸送時期などは明言を避けた。
 一方で、ふげんの解体により出る放射性廃棄物の処分先は決まっておらず「廃棄物の処分の方が(廃炉の完了時期に)大きな影響力を持つ。他の電力会社の廃炉問題などと絡んで、もっと広いレベルで検討されるもの」と述べた
 西川知事との懇談では、ふげんの解体に伴い新しい技術の開発を続け、レーザー切断技術などを東京電力福島第1原発の廃炉作業に積極的に応用していく考えを示した。
    http://www.fukuishimbun.co.jp/sp/localnews/nuclearpowermonjuresume/61352.html?RP=s


 ほらね、「使用済み燃料の搬出は13年度後半」なんてウソだったでしょう。とどのつまり「フランス頼み」を打ち明けているわけだが、この計画も「フランスに話を持ちかけている」という段階でしかないことが分かりますね。具体的には何も進展していない。それなのに、またしても「年度内には計画を示せると」口から出任せを繰りかえしている。そもそも「日本国内での処理は無理」という判断をするのに何年かかっているのだ。さらに呆れるのは、フランスに脈ありと見るや、燃料搬出については「廃炉完了の時期に関係ないほど早く問題は解決する」とたちまち楽観主義の本性をさらけ出す。そんなに簡単なことか?

 聞き捨てならないのは、この期に及んで「36万1800トン」の処分先が決まっていない、などど言いだしたことだ。「廃棄物の処分の方が(廃炉の完了時期に)大きな影響力を持つ。他の電力会社の廃炉問題などと絡んで、もっと広いレベルで検討されるもの」だって! 廃炉作業が進まないのは処分地が決まらないからだ、とじんわり論点をすりかえて来ている。次に、処分地が決まらないのは反対派が騒ぐからだ、と言いだすのは時間の問題だ。あの堀義人と同じ屁理屈である。一緒に「勉強会」でもやったのかな。

 この理屈から予想される次の手は、次の二つである。間違いない。
1、御用学者に「この程度の汚染レベルが人体に深刻な影響を与えるとは考えられない」と「新基準」を作文させる。
2、国家権力でもって処分地を確保する。

 つまり、今のやり方で廃炉作業を続けることが非現実的であることに気付いているのだ。そりゃそうだろう、2,500年だぜ。テキトーにぶっ壊して、テキトーに埋め、テキトーにバラ撒いて終わらせたい、と思い始めているのだ。この間現場は一生懸命努力した、その姿を報道陣にも公開した、ぼちぼち本音を吐いても許してもらえるだろう、やるだけのことはやったのだから …… 、

 そもそも『ふげん』を『原子炉廃止措置研究開発センター』と言い替えること自体、原発事業の矛盾をそのまま示している。さあ廃炉、という段になってから、その方法を考えます、と言っているわけだ。原発とは、終わらせ方も分からないまま始めた事業、だったのである。 
 「東京電力福島第1原発の廃炉作業に積極的に応用していく」なんてこじつけて、後追い作業に無理やり意義を見出そうとしているが、己のしでかしたことの「尻ぬぐい」さえ出来ぬのに、どうして他者の手本になれるのというのだろう。

 『福井新聞』(2013年1月24日)より
 
「廃棄物を除染する作業員ら」







 『福井新聞』(2015年1月8日)より

「年頭のあいさつで西川一誠福井県知事と懇談する
 原子力機構の松浦理事長(中)と斎藤敦賀事業本部長(右)」

 
 独特の表情してます。身内にこんなのがいたらイヤだな






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 −−【その4】了−− 原発推進論 ーー 不勉強を傲慢さで補う屁理屈 目次へ