難波駅を出た電車がわずかに右にカーヴすると、つり革に掴まっていた男たちは一斉に右側の窓から外を見やった。
 ほんの一瞬、大阪球場のスコアボールドが見えるからだ。
 私の家は球場から1キロ以上も離れていたが、物干し場にあがると、観客のあげる歓声が風に乗って流れてきた。
 確かに昭和のある時代まで、私たちは「自分の五感で直接」社会の動きを感じとっていたのだ。                           






今回の標題『疑惑のワルツ』は、
もちろん、
スタンダード・ナンバー
『魅惑のワルツ』"Fascination"
のモジリである。


私が初めて聴いたのは、
ナット・キング・コール
の歌ったもの。
1950年代の終わり頃。


ナット・キング・コールの名は、
当時の日本では
かなりポピュラーに浸透していて、
友人たちは、皆、
どこで聞いてきたのか、
彼の名を
ナッ、キン、コール、
と呼んでいました。

Nat King Cole



ネットで検索したら、
家にあったのと同じLPレコード
10インチ・25センチ盤が、
中古屋さんで売られていました。



歌詞を印刷した裏面も、
盤面のレーベルも、
記憶の通りです。

A面3曲目が『魅惑のワルツ
"You Tube"で聴けるもの
おなじ音源です。
















ナット・キング・コールの声は、
映画とよくマッチします。
彼のヒット曲を、
テーマ音楽にして、
ずばりそのまま題名としたのが、
これ。

『モナリザ』
1986 ;Neil Jordan

チンピラ中年男の純愛もの。
ニール・ジョーダンの映画は、
優れたものばかりですが、
特にこの映画は、
私の感覚にピッタリとなじみます。
予告編をどうぞ。















ナット・キング・コール自身は
登場しないのですが、
彼の存在が
テーマの中心に絡んでくる映画が
これ、


『グリーンブック』
2018;
Peter Farrelly

新しい映画だから、
詳しい内容は申し上げません。


ピアニスト、ドン・シャーリーは、
イタリア男トニーを
運転手に雇って、
あえて黒人差別の酷い「南部」へ、ツアーをしようとします。


ドンは、
白人の差別的な対応には、
いつも忍従して耐えるのですが、
最後の演奏会の夜だけ、
少し態度が違うのです。
ピーター・ファレリーと云えば、
コメディ映画ですが、
この映画も基本は、
コメディ仕立てになっています。
見事です。
予告編をどうぞ。
















村上春樹『羊をめぐる冒険』

この小説の後半に、
次のような一節があります。

僕は真空管アンプのパワー・スイッチを入れ、でたらめにレコードを選んで針を置いてみた。ナット・キング・コールが「国境の南」を唄っていた。



読み終えて、同じものを
聴いてみようとしたのですが、
「無い」のです。
ナットは、
「国境の南」を吹き込んでいない。

おそらく、春樹さんは、
フランク・シナトラの
レコードと勘違いしていたのだと、
思います。

私は、春樹さんと同い年ですから、
この勘違いが、
よく理解できます。

我々の世代にとって、
ナット、フランク、それに
ジェームス・ディーンが、
アメリカに向いた窓だった。

では、シナトラの『国境の南』を。















でも、なんと言っても、
『疑惑のワルツ』の
大衆化に貢献したのは、
この映画でしょう。

『昼下がりの情事』
1957:Billy Wilder



『昼下がりの情事』といえば、
『疑惑のワルツ』、
すっかり浸透しております。





『昼下がりの情事』には、
ワグナーの、
『トリスタンとイゾルデ』も、
出て参ります。

この「超大層な音楽」を背後に、
台詞なしのコミカルなシーンが、
続きます。
ワイルダーがワグナーに、
ちょっとした「復讐」を
仕掛けているように思えます。





『魅惑のワルツ』はアメリカのポピュラー・ソングのように思われますが、そうではありません。
もとは「ヴァルス・ツィガーヌ」(ジプシーのワルツ)と呼ばれた、パリのカフェの音楽。作曲者はイタリア人なんだそうです。
それを知ると、ワグナーのちょっと皮肉っぽい引用も成る程、とうなづけるのです。

ビリー・ワイルダーは、家族のほとんどをナチスに惨殺され、たった一人でアメリカへ逃れた人。
ナチスはワグナーの音楽を国威発揚の道具におとしめた。何の映画だったか「今日は変だな、ラジオは朝からワグナーばかり流してるぜ」という台詞があった。第二次大戦開戦の日の描写である。
『ワルキューレの紀行』は、ナチスの『軍艦マーチ』みたいに使われた。もちろん、ワグナーの死後の話であり、作曲家自身とは無関係のことなのだけれど。






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『疑惑のワルツ』 何故、今、関電?
       ーーーー 関西電力 3.2億円収賄汚職 その2
                  (2019年 10月 25日)


関電汚職の記事を書いた。だが、このモヤモヤ感は何だろう?


 10月1日、『関西電力 3.2億円収賄汚職 その1』を書いた。
 いつもなら、記事をネット・サーバーにアップし終えると、これで一段落、ホッとした気分となり、すぐにパソコンの電源を落として、お茶を飲んだり、犬を散歩に連れ出したりする。だが、今回は違った。批判対象の下劣さで精神が荒むのはいつものことながら、今回は当方の表現もいささか下品に過ぎたという自戒もあった。だが、それとは別に、何か、もやもやと心に引っ掛かるものがある。私はパソコンの前に座ったまま、しばらくニュース・サイトなどを眺めていた。
 そのうちに、その「もやもや」の正体がしだいに言葉となってきて、次の二つの疑問に凝縮してきた。

1;なぜ、今このタイミングで、「関西電力収賄汚職」が明るみに出たのだろう?
 ・金沢国税局の調査は、高浜町の元助役・森山栄治存命の時点から始まっている。
 ・関西電力は、この金品受領の事実を2018年夏の社内調査で確認している。
 ・2019/3/10 付けで某氏「告発文」が、多くの政治家・政党・マスコミあてに出されている。  ・つまり、政府・内閣・検察が知らなかったはずがないのだ。
  https://www.excite.co.jp/news/article/Cyzo_217829/

2;私はそれを皮肉る記事を書いたのだが、それがなぜ「10月1日」だったのだろう?
 ・これは全く私の心理の話なのだが、『もうオリンピックなんか、止めてしまえ。』の続稿を書いていた。だが、それを止め、急遽、関電収賄に切り替えている。

 なぜ? なぜ? と自問しながら、さらにしばらく、ニュース・サイトの流し読みを続けていて、ある記事に目が止まった。


モヤモヤに、プラス・ワン。なぜ自民党二階幹事長が?


  【日韓経済戦争】 二階幹事長の発言「韓国に譲ろう」
           日本ではベタ記事、韓国紙は1面トップの大騒ぎ


 “J-CAST 会社ウオッチ”というサイトの記事である。末尾に福田和郎という署名。これによると、この二階幹事長談話を、「ベタ記事」ではあっても取りあげたのは『読売新聞』だけだった、という。読売新聞の文面(2019年9月28日)を、その記事から「孫引き」してみる。

 自民党の二階幹事長は27日、BSテレ東の番組収録で、徴用工問題を発端に悪化した日韓関係について、『円満な外交が展開できるよう、韓国の努力も必要だが、まず日本が手を差しのべて、譲れるところは譲るということだ』と述べた。二階氏は韓国政界に独自の人脈を持つ知韓派として知られる。『我々はもっと大人になって、韓国の言い分もよく聞いて、対応していく度量がないとダメだ』とも語った。
  https://news.livedoor.com/article/detail/17164736/

 何だ、これは?
 もう一つ、モヤモヤが追加される。

3;なぜ、今になって急に、二階幹事長が「韓国にゆずろう」と言い出したのだろう?

 読売新聞は「二階氏は韓国政界に独自の人脈を持つ知韓派として知られる」と書いているが、本当だろうか? 二階氏は、ついこの間、日本を訪問した韓国国会議員団との面談をドタキャンしている。それも、7月31日・8月1日の両日に渡って。「悪化した日韓関係」改善の手がかりを得ようとして訪れた韓国国会議員団に、門前払いを食らわせたのである。いちおう「国会の準備」だとか「緊急安全保障会議」だとか、もっともらしい理由をつけているが、「対韓経済戦争に妥協の余地は無いという強硬姿勢」を示したものに相違なく、事実、ほとんどのマスコミは、快哉を叫ぶかのような雰囲気でそれを報じていた。二階氏自身、2年前、某テレビ番組で「韓国は重要な国だが、交渉や対話をするには厄介な国」と発言しているではないか。彼のどこが「知韓派」だというのか。
 そんな二階氏が、なぜ、急に、「韓国にゆずろう」などと言い出したのか。

 二階氏は「自民党幹事長」なのだから、自民党の最有力者の一人なのだろう。ただし「自民党幹事長」の肩書きどおり、自由民主党の最高権力者であるが、安倍内閣の現閣僚ではない。このあたりが「微妙」である。
 また、この談話の場は「BSテレ東の番組」であったという。2年前の「厄介な国」発言は、大手マスコミ(確か、フジテレビ?)の番組であったが、今回は『BSテレ東』である。世間を騒がす重大事件が発生し、全マスコミが一斉にそのニュースを流していても(例えば、某横綱の引退会見など)、ただ一人、番組表通りに淡々とアニメの放映を続ける、あの「テレ東」である。テレビには違いないが、大手系列の地上波ほど露出度の高い舞台であるとは言えない。さりとて懇談会レベルの私的なものでもないのだ。このあたりが、また「微妙」なのである。

 と、ここまで考えて、1 … 、2 … 、3 … 、と3つ続いた「モヤモヤの奇妙な符合」に気がついた。「心に引っ掛かるもの」の正体が見えた。

 自分は、怒りにまかせて、関西電力の最高幹部たちを「ウンコまみれ」などと罵っていたが、実は、誰かに「はめられている」のではないか? 何者かに「してやられた」のではないか?

 冷静に考えてみよう。
 いま、マスコミの論説やわれわれ下々の関心が、一斉に関西電力の醜聞に向かうことは、いったい誰の有利に働くのだろう?
 10月4日に臨時国会召集、というタイミングであったことを、思い起こそう。


疑惑のワルツ 第1拍; 東京電力への関心集中を緩和するため?


 2013年9月、安倍晋三は、オリンピック招致プレゼンテーションで、開口一番こう言った。

 フクシマについて、お案じの向きには、私から保証をいたします。状況は、統御されています。東京には、いかなる悪影響にしろ、これまで及ぼしたことはなく、今後とも、及ぼすことはありません。

 安倍君に「保証」されても嬉しくもなんともないが、彼はこのスピーチがよほど気に入っているとみえ、『首相官邸』のホームページには、6年後の今でも未だにこの動画が掲載されている。上の日本訳は、そこからコピペした。
  https://www.kantei.go.jp/jp/96_abe/statement/2013/0907ioc_presentation.html

 月光仮面のおじさん、ではないが、誰もがみーんな知っている通り、これは「真っ赤な嘘」である。

『朝日DIJITAL』(2019年8月8日)
《標題》 汚染水タンク、あと3年で満杯 福島第一原発の敷地飽和
《本文》 東京電力は8日、福島第一原発で事故を起こした建屋などから発生する汚染水をためるタンクが、2022年夏ごろに満杯になる見通しを明らかにした。増え続ける汚染水を原発敷地内でタンクを増設してしのいできたが、タンクをつくる敷地の確保が難しいという。満杯になる時期が示されたのは初めて。
 9日に開かれる専門家を集めた経済産業省の小委員会で示す。国は、タンクにためた処理済みの汚染水を薄めて海に放出することを有力な選択肢としているが、地元の漁業関係者には風評被害への懸念が根強い。東電が満杯になる期限を明示することで、国に対応の決定を迫る形とな
る。
  
 「状況は、統御されています」の「状況」には「汚染水」は含まれないのだろうか?

 だが、この『朝日』の記事にも嘘がある。
 もう笑うしかないのだが、「満杯になる時期が示されたのは初めて」ではないでしょう? もう何回、資料や写真で、原発敷地内を汚染水タンクが埋め尽くす「状況」を見せつけられたことか。経済産業省が続々と放出している資料を見てご覧なさい。「2022年夏」という期日の断定はなかったかもしれないが、もうすぐ満杯、ほぼ限界、もう、あきまへん、という危機感ばかり訴求されていたではなかったか。またしても月光仮面のおじさん、ではないが、誰もがみーんな知っていることを、大手マスコミが、「満杯になる時期が示されたのは初めて」などと言ってよいのだろうか? もし、「初めて」とは「東京電力自身が公言したのが初めてと云う意味だ」と強弁するならば、これもご飯論法の一バリアント、ほとんどフェイク・ニュースの域に達している。

 いや、もっと酷い嘘は、「地元の漁業関係者には風評被害への懸念が根強い」という部分である。まるで「風評被害」だけが問題であるような書き方である。そうじゃないだろう。去年の夏の「騒動」を忘れたのか?
 去年の8月末、経済産業省は『多核種除去設備等処理水の取扱いに係る小委員会 説明・公聴会』なるものを開催した。この「小委員会 説明」は、二つの重大なミスディレクション【註】で、人心を欺くように仕組まれていた。それが、厚顔、稚拙、あざとい、と三拍子そろったものだったので、公聴会参加者はみな激怒したのであった。
【註】(Misdirection;注意を意図していない別の所に向かせる現象やテクニックのこと。主にマジックで用いられ、観客の注意を別の場所にそらす手法として知られる。- Wikipedia)

 「ミスディレクション」の1 →
 「汚染水」といっても、大きな害を起こしにくい「トリチウム水」である。極めて危険な放射性物質はほとんど含まれていない。

 だが実際は →
 その「トリチウム水」から、2017年の1年間だけで、告知濃度限度を超える「ヨウ素129」が60回、「ルテニウム106」「テクネチウム99」を加えると65回、さらに「ストロンチウム90」も検出されている。このことを公聴会の直前、『河北新報』がスッパ抜いた。
 「小委員会」は、これらの「悪玉」放射性物質が多く含まれていないとする、2016年以前の東電作成資料を提示して、安全性を偽装していたわけである。

 「ミスディレクション」の2 →
 大きな害を起こしにくい「トリチウム水」であるから、今後は、海に流す、地下に注入する、大気に拡散させる、地下に埋める、のいずれかの方法で処理したい。


 だが実際は →
 「トリチウム水」は猛毒である。

 生物学的毒性が比較的小さいと云われるが「トリチウム(三重水素)は一種のβ線核種で、一般のγ線測定器では測れない点、更には、生物学的毒性としても、トリチウムが水や水蒸気の形で人体に入ると99%吸収されます。皮膚からも吸収され、しかも摂取量の 2% はDNAに取り込まれます。
      
― ― 小出裕章さん(京都大学)

 実際、アメリカ・カナダ・イギリス・インドなどから、トリチウムを放出した核施設の周辺から多くの実害報告が上がっている。症状はいずれも、白血病・新生児の脳神経系異常である。
 公聴会の場でも、西尾正道さん(北海道がんセンター)が、「トリチウムは有機物の水酸基と置き換わる」と指摘している。"You Tube" の動画を見ると、彼は厳しい口調で「説明」を糾弾しているが、主催者側は「有識者」も含め、黙したままで何の反論できないでいるではないか!
 つまり、現状況では「タンクに保管する」という暫定的対応しか選択肢は無い。しかるに、敷地が無い、費用がかかる、という理由で(そうは明言しないのだが)、最初から「タンク保管案」を外した報告をしている。だから公聴会は「荒れた」。
  https://www.youtube.com/watch?time_continue=316&v=gssezF1qY2Q 

 それから1年たって、今度は、東京電力側が政府に対し、もう待てない、「トリチウム水」を海洋に流して処理することを決定してくれ、と言い出している。つまり、「フクシマの状況が統御できないこと」が隠しおおせない状況まで追い込まれ、政府と東電との間で責任の擦り付け合いが始まった、というのが事の本質なのだ。加えて、9月の颱風15号被害で、東電の電力供給会社としての能力低下が露呈してしまった。

 この時、国会で、ごく中位の知的能力を持った野党議員がいて、トリチウム放出問題を正しく取り上げ、オリンピック招致時の安倍君の嘘から始まって、地下水脈から常時水が湧き上がってくるような場所に原発を造った原発計画そのものまでを議論の俎上に載せたとしたら …… 、

 国会を前にして、国民の眼を、東京電力からそらす必要があった。
 だから、このタイミングで、関西電力の醜聞がリークされたのである。


【惑のワルツ 第2拍; 消費税10% への批判を回避するため?


 10月1日は「消費税率が10% に引き上げられる、まさにその当日」であった。
 野党もジャーナリズムも、すでに、消費税率引き上げに対する根本的な批判能力を喪失してしまっている。低減税率のココがおかしいとか、税率変更に伴う電算システム上の混乱とか、システムを更新する資金がないので廃業する個人商店が多いとか(これは大問題なのだが)、些末な事象を指摘するのが関の山である。
 それどころか、むかし消費税率アップをしたのは民主党じゃなかったか、と指摘されて(2012年、野田政権下における『消費税増税を柱とする社会保障・税 一体改革関連法』成立のこと)、ああ、そうでしたね、すんまへん、と黙り込む始末。ちっとは反論したまえ。

 反論の1。
 この『 …… 関連法』に対し、当時野党だった自民・公明が断固反対したのに、与党民主党が強行採決したと云うのなら、「民主党よ、お前が決めた」論も成り立つかもしれないが、実際は「民主、自民、公明などの賛成多数」で可決されている。つまり、自民も公明も同罪。この批判は筋違いなのである、政治的な伏流をもっと有り体に再現するなら、野田佳彦という政経塾出身の、口は回るが事の重大さが全く分かっていない「軽ーい」政治家に、消費税率の案件を国会に提出させたのである。原発再稼働もまた然り。
 話がそれてしまうが、一言だけ述べておく。少し前の時代までは、保守・革新を問わず政治家というものは、《メダルにはみな裏と表がある》ことをよく心得ていた。一つの決定をすれば、必ずそのメダルの裏側で、困難な事情が生じる。政治とは、民主主義の原理がそうであるように、「妥協して決定を先送りにすること」が最も賢明な判断である場合もあるのだ。だから、政治理念の左右を問わず、長年の懸案事項というものが沢山存在してきた。それを、お気軽に、ハイ、ハイ、私が解決しましょうと安請負することを「自分の実力」と勘違いして悦に入るのが、政経塾およびその亜流的サークルからの出身議員の特性である。安倍君は血統的には名門政治家一族の末裔なのだろうが、資質的にはこの「正規塾的政治家」と同類である。だから気が合うのだ。話をもとに戻そう。

 反論の2。
 『 …… 関連法』は、その名の示すとおり、「消費税増税だけ」を決めたのではなく、「それを柱として社会保障と税制を改革する」ための法案であった。じゃあ、その後の自民安倍政権下でどれほど「社会保障と税制が改革されたのか」と、問い返したらどうなのだ。国民の、特にジワジワと増加する一方の貧困層の、窮地・惨状を代弁するのが、野党・ジャーナリズムの使命ではないのか!

 「消費税」と云えば聞こえが良いが、その正体は「貧困層・貧乏人から最後の生活資源を奪い取る税制」のことである。与党政治家や官僚どもは、繰り返し税制の仕組みを弄くろうとする。だが、その前に考えねばならぬのは、納税する側の経済状況であるはずだ。野党・マスコミ・有識者たちが、提示された税制案を批評・批判する場合も同じであろう。彼らの眼は、いったい、何処に向けられているのか。低減税率が何に適用されるか、などと云う些末な議論しか出てこないのはなぜか?
 経済とは何か? 安倍君、それに、野党議員たちもよく聞け。それは「株価」とか「 GDP」の事ではないぞ。前者は「金融商品に群がる亡者たちの共同幻想」に過ぎないし、後者は「何たらミクスが上手くいっている風に偽装するために、下っ端役人どもがでっち上げた作文」でしかない。以前にも指摘したが、それは、簿記会計上の原理原則を無視した数値の積み上げを行っている。(言っておくが、私は15歳の時から簿記会計を学んできている! …… と、威張って云うほどのことでもないが)
 経済とは「富を生む労働それによって生み出された商品の流通提供した労働力に見合う対価を得て人々が生活を営む家庭経済」が循環していく過程のことを言う。当たり前だろう。マルクスだって、ケインズだって、この前提は同じだ。
 しかるに、「規制緩和」→「グローバル化」→「聖域なき構造改革」→「アベノミクス」と続く自民党政権の経済政策(内実は、アメリカの対日要求の受容でしかない)が、どれだけこの経済循環過程を破壊してきたことか! マルクスの云う「価値を生む労働」の「場」そのものの破壊、ケインズの云う「不況下では金融政策は無効、減税と需要拡大政策をとれ」の真逆の政策。その結果、「美しい」「誇りある」日本の国民をどれほど困窮化させてきたのか。示すべきデータは幾多とあるが、一つだけ引用しておこう。



 過去20年間の「実質賃金」の推移を示すグラフである。グラフにまとめたのは『全国労働組合総連合』。データの「出典」は"OECD"。つまりここで云う「国際比較」の「国際」とは、欧米先進国群とそれに首を突っ込んでいる日本などのこと。それらの国々のなかで、何と、「日本だけが、実質賃金が低下し続けている」のである!
 グラフの起点は1995年(平成7年)。その2年後の1997年(平成9年)、橋本龍太郎内閣の時から実質賃金が低下し始める。覚えておられるだろうか、この年の4月から消費税は「5%」にアップしている。さらに、政治家もマスコミも黙して語らぬわけだが、この時点からデフレ・スパイラルが始まっているのである。
 グラフに記された数値によれば、日本の実質賃金は、1997年を「100.0」とすれば2016年は「89.7」になると云う。これに、「3%」→「10%」という消費税税率アップを加味すれば、「84.0」と計算される。しかもこれは、一握りの超富裕層まで含めた単純平均だ。日本人お得意の「偏差値」で計算しなおして、「ごく平均的な日本人」の実質賃金を割り出せば、もっと悲惨なデータとなるはずである。

 これらの数値変化は、即、過去20年間の自民党政権が実行してきた政策が、根本的に誤っていたことを如実に示す証拠である。2019年10月1日の「消費税率の 10%へのアップ」は、その最終プロセスなのだ。
 「消費税ゼロ」を訴えている山本太郎は、理想論を述べているのでもなければ、支持を得るための空論を弄しているのでもない。「消費税ゼロ」こそ、過去20年間の自民党政策に対する最も論理的・現実的な反措定なのである。

 トリチウム放出問題と同様、いま国会に「ごく中位の知的能力を持った野党議員」がいて、「消費税率の 10%へのアップ」を切り口として、現在日本の税制と還元の全体像を「すべて合計して、見える形に」して提示し、「日本全体の貧困化」を議論の俎上に載せたとしたら …… 、

 国会を前にして、論点を、「消費税率の 10%へのアップ」からそらす必要があった。
 だから、このタイミングで、関西電力の醜聞がリークされたのである。


疑惑のワルツ 第3拍; 対韓経済戦争「妥協工作」開始を目立たせない策?


 2017年秋の衆院戦で、安倍自民党は「北朝鮮」と「高齢化」という二つの仮想的を捏造して得票を稼いだ。
 今年7月の参院選でも、同様に、「経済戦争で抗争中」の韓国に対し、マスコミに「嫌韓」ムードを煽らせ、その韓国に対して「毅然とした態度」をとってみせることで、馬鹿な(おっと失礼、正確に言えば、馬鹿になるように調教された)国民の支持を得ようとした。
 だが、今回は、その作戦は成功したようには思えない。
 自民党の参院議席数は「 123」から「 113」へと10議席減少。ただし、これを「8%減」と勘違いしてはならない、非改選議席が56議席あるから、今回の改選議席数だけを見ると「67」から「57」へと、「15%」減少しているのである。見事、惨敗ではないか。
 にもかかわらず、マスコミ報道は「自民・公明の与党合計で過半数を超えた」などと、あたかも安倍自民党が勝利したかのように見出しをつけていた。安倍君自身が「改選議席において与党過半数を大きく上回ることができた。大きな勝利だと思う」と述べたことを、そのまま鸚鵡返ししているのだろう。正真正銘の馬鹿である。つける薬もない。

 欧州における "EU" と同じように、中国・台湾・韓国・日本などの東アジアの国々は、経済的・文化的に交流と統合の度合いを強めていくプロセスにある。これは、政治家がいかに意図的な対立関係を煽ろうとも「現実がそのように進行している」のである。ここで一々例を挙げなくてはならないような段階はすでに過ぎ去っている。
 マスコミは、西日本における韓国からの観光客の減少とか、定期交通路線の旅客数減少だとかを取り上げているが、日韓摩擦の弊害はもっと基幹産業部分で生じているはずである。ネトウヨたちは、日本の強行姿勢で韓国経済がいかに打撃を被っているかを囃し立てているが、売り手と買い手の両方にメリットがあるから取引が成立しているのだ。韓国だけが打撃を被って日本は無害、なんてことはあり得ない。此奴等(こやつら)も、また、正真正銘の馬鹿である。つける薬もない。
 安倍君も、経済界から、いい加減にしたまえ、と云われているに相違ない。だが、韓国に拳を振りあげてみせることを政策代わりにしていた安倍君は、自分から譲歩の姿勢を示すことができないのである。

 だから、二階幹事長のような「微妙な」立場の人間に、そっと、目立たぬように、譲歩の姿勢を発信させ、別の問題で世間が騒いでいる間に事を進めるしか策がないのだ。

 だから、このタイミングで、関西電力の醜聞がリークされたのである。


【時の流れに"超"鈍感な政治家たち】


 今回、私は、「だから、このタイミングで、関西電力の醜聞がリークされたのである」と三回繰りかえした。根拠は無い。100%、私の「勘」である。しかし、現在の政治の動きはまさにこの「勘」が正しいことを証明している。

『朝日DIJITAL』(2019年10月2日)
 (国会)召集前に立憲、国民民主党を中心に統一会派が結成され、衆院の勢力は 120人に。第2次安倍政権以降、最大の野党会派となった。今月から始まった消費増税の妥当性や日米貿易協定の成否など論戦のテーマが山積する中で、政府の姿勢をただす問題として照準を合わせるのが、あいちトリエンナーレへの補助金全額不交付かんぽ報道をめぐるNHK番組の続編見送り問題関西電力の金品受領問題――の追及3点セットだ。
  
 ほらね、「消費増税の妥当性」を「論戦のテーマ」としておきながらほっぽり出し、「関西電力の金品受領問題」に食いついてます。「あいちトリエンナーレへの補助金全額不交付」と「かんぽ報道をめぐるNHK番組の続編見送り問題」と合わせて「追及3点セットだ」ですと!
 「トリチウム放出」も「日韓貿易戦争」も、きれいサッパリ忘却されてしまっている。「かんぽ vs NHK」なんぞ、権力機構同士の痴話喧嘩じゃないか。放っておきなさいよ。時代認識ゼロ、危機感ゼロ、レイシズムに対する憎悪もゼロ、正真正銘の馬鹿、つける薬もない。

 でもね、安倍君や麻生君がこう言う策略を仕組んだとは思えないな。彼らは、それほど賢くはない。また、政治小説や映画にあるように、後ろに黒幕がいて、そのドンが操っているのでもないだろう。
 しかし、こうしなければ現政権の危険度が増す、という危機感が、保守勢力のなかに集合的意識となって作用していることは確かなのだ。中心的人物として、ある個人とか、グループが特定できるかもしれない。出来ないかもしれない。でも、それは、どちらでも良い。
 この流れが関知できないような人たちが、野党議員であったり、マスコミであったりする現状が許せないのである。




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