難波駅を出た電車がわずかに右にカーヴすると、つり革に掴まっていた男たちは一斉に右側の窓から外を見やった。
 ほんの一瞬、大阪球場のスコアボールドが見えるからだ。
 私の家は球場から1キロ以上も離れていたが、物干し場にあがると、観客のあげる歓声が風に乗って流れてきた。
 確かに昭和のある時代まで、私たちは「自分の五感で直接」社会の動きを感じとっていたのだ。                           














(今回の危険人物)
齋藤隆博

2009年、東京地方検察庁特別捜査部副部長として陸山会事件の捜査を指揮。
当時の部下であった田代政弘らと捜査報告書を偽造。
しかし不起訴となり、その後もキャリアを重ねる。

2013年
東京高等検察庁検事、
2014年
東京地方検察庁交通部長、
2015年
東京地方検察庁特別捜査部長、
2016年
徳島地方検察庁検事正、
2017年
最高検察庁検事、
最高検察庁新制度準備室長、
2019年
東京地方検察庁次席検事、






ゴーン氏取り調べ時間

データは高野隆弁護士
グラフ化は山田雄一郎記者







新聞紙面を振り返ると、
マスコミのご都合主義がよく分かる。


「陸山会事件」で、
小沢一郎氏が起訴された時


「陸山会事件」で、
小沢一郎氏に無罪判決の出た時



「郵便不正事件」で、
村木厚子さんが被告であった時、


「郵便不正事件」で、
大阪地検の証拠データ改竄がバレた後

「郵便不正事件」正式には、
「大阪地検特捜部主任検事証拠改ざん事件」では、
担当検事3名が逮捕され、
懲戒免職処分を受けている。

その一方で、
齋藤隆博は、その後も順調に出世し続けているのが不思議である。

























司法取引が描かれている
アメリカ映画を3本。


リンカーン弁護士

The Lincoln Lawyer
2011;Brad Furman


ウルフ・オブ・ウォールストリート

The Wolf of Wall Street
2013;Martin Scorsese


アメリカン・ハッスル

American Hustle
2013;David O. Russell







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えっ、いつの間に「司法取引」が?
        『カルロス・ゴーン vs 東京地検』 その3
                   (2020年02月13日)


 ゴーン氏逮捕の時点までさかのぼって、時系列通りに新聞記事を読み直している。ゴーン氏は、いったい何の容疑で逮捕され、どのような取り調べを受けたのか、を確認するためである。
 前回みたように、ゴーン氏逮捕当日の記事、『朝日新聞DIGITAL』2018年11月19日付けの記事2本は、驚きの連続だった。

1) 容疑は「所得の過少申告」つまり「脱税」である。
  だが、検察は、我々がネット上で見ることのできる日産の『有価証券報告書』以外に何の具体的証拠も持っていなかった、と疑われる。


2) 機上での身柄確保は、まだ任意同行の段階だった。
  だが、情報リークを受けたマスコミ(NHK 朝日など)と協働して、極悪人逮捕ショーが演出された。


 翌20日の報道で、我々はさらに吃驚仰天させられるのだが、その前に、上の「1)」について、もう少し触れておく。「とにかく逮捕して、強引な取り調べで自白を強要する」という検察のお家芸が、ここでも繰りかえされたように思えるからである。


まず逮捕、次に自白強要。


 東京地方検察庁のホームページに、
『被告人カルロス・ゴーン・ビシャラの記者会見について(コメント)』
という PDFファイルが置かれている。
 日付は、令和2年1月9日、つまりゴーン氏会見の翌日。署名は「東京地方検察庁次席検事」。
  http://www.kensatsu.go.jp/kakuchou/tokyo/page1000001_00015.PDF

 読んでいただければお分かりの通り「ほら見ただろう、ゴーンは逃げただろう、だから 130日間拘留する必要があったんだ、」というだけの内容である。マスコミ各社は一斉にこの内容を報道した。だが『朝日新聞DIGITAL』は「コメントは地検のホームページに掲載された。地検がこうしたコメントを出すのは極めて異例」と、素直な感想も添えている。そう「極めて異例」なのだ。森まさこ法相の会見と同様、東京地検もけっこう焦っていたわけである。

 ここで、署名者の「東京地方検察庁次席検事」とはいったいどういう人物か、を確認しておこう。
 「東京地方検察庁次席検事」とは斎藤隆博。
 この男、1月9日に記者会見も開いていて、そこで、取り調べの時間についても「1日平均4時間程度で、ゴーン被告の主張する8時間ということはない」と、述べている。この文言は、ゴーン氏への反論として、その核心部分であるはずなのに、先の PDFファイルでは一言も述べられていない。疑い出せばきりが無いのであるが、ホームページの PDFファイルは公式なものであり「証拠」として残ってしまう。だから、後々に瑕疵を指摘されることを回避して、喋っただけにしておき、あとはマスコミの報道に任せたのだ、と私には思える。

 実際、この斎藤隆博の発言に反論するかたちで、ゴーン氏の弁護人だった高野隆さんは、ゴーン氏の取り調べ時間の記録を公開している。高野隆さんのブログ、『刑事裁判を考える:高野隆@ブログ』の「取調べ時間(まとめ)」(2020年01月11日)で、連日の取り調べの開始時間と終了時間が確認できる。その一覧に添えられた文章は次の通り。
  http://blog.livedoor.jp/plltakano/

ゴーンさんに対する検察官の取調べ時間をまとめてみました。
2018年11月19日から2019年1月11までは、検察官から開示された取調べ状況報告書によります。
2019年4月5日以降はゴーン氏のメモ(日々の取調べ開始時刻や終了時刻を記録してもらった)によります。
なお、取調べ時間はその日の開始から終了までの時間であり、休憩時間も含みます。
ゴーン氏は、70日間、連日週末も休みなしに、サンクスギビングもクリスマスも年末年始も、弁護人の立ち会いもなしに、平均7時間の取調べを受けていたのです。


 データの出所がきちんと明記されている。「取調べ時間はその日の開始から終了までの時間であり、休憩時間も含みます」と、但し書きも添えられている。極めて客観的な文章表現であると思える。
 
 斎藤隆博次席検事は、1月23日の定例会見で、この高野隆弁護士のブログ内容に反発して、「(実際の)取り調べは最も長くても1日6時間強だ」と反発した。しかし「最も長くても1日6時間強だ」と強弁するだけで、何ら説得力あるデータを提示しようとしない。

 この「説得力あるデータを提示しない」という違和感は多くの記者が感じているようで、例えば、『東洋経済』の記者である山田雄一郎さんは、『東京地検が猛反発した「弁護士ブログ」の記録 見えないカルロス・ゴーン被告の取り調べ実態』という記事を書いている。記事の中で高野弁護士が示したデータをグラフ化しているので、左欄にコピーさせていただく。
  https://toyokeizai.net/articles/-/326642

…… すると、取り調べ開始から終了まで12時間18分と最も長かった2018年12月20日は、取り調べを開始した午前10時00分から終了した22時18分までのうち、昼食、夕食、弁護士や外交官との接見、そのほかの休憩時間に6時間費やしたことになる。はたしてそうしたことが本当にあったのだろうか。純粋な取り調べ時間が開示されていないだけに真相は不明だ。

 高野氏のブログに示された情報が「まったく事実に反する」というのであれば、検察は「平均4時間弱」の根拠となる情報をきちんと開示すべきだろう。
 取り調べ時間だけでなく、自白の強要もあったのかどうかも焦点だ。ゴーン氏は1月8日に逃亡先のレバノンで行った会見で「自白を強要された」と述べた。斎藤次席検事は翌9日の定例会見と同様、1月23日の定例会見でも「自白の強要はなかった。取り調べの様子はすべて録音・録画をしている。その内容を見ていただければ、(検察の描いた)筋書きを押し付けたり、自白を強要したりしたということがないのは明らかである」とした。
 そうは言ったものの、「録音・録画の内容を見るのに必要な手続きは」と記者に問われると、斎藤次席検事は「お答えできない。裁判の証拠となるべきもので、そこで出せればいちばんよかった。裁判に出す以外の目的で(録音・録画内容の)使用ができるかどうかは、直ちに(出せる)ということではない」と明言を避けた。
 ゴーン氏は1月8日の会見で「今後、数週間以内に行動を起こす」と次なる”反撃”を示唆している。次なる一手の内容は不明だが、今後、ゴーン氏が検察批判をさらに強めた場合、検察は主張の根拠となる情報を開示せずに「事実無根」と言い続けられるのだろうか。


 国会での安倍晋三や、記者会見での菅義偉と、同じようなモノの言い方である。だが、斎藤隆博次席検事が、どのような「仕事」をしてきたのかを知れば、ああ、そうですか、と黙認して済ますことが出来なくなる。


斎藤隆博には「前科」がある !!


 『陸山会事件』を覚えておられるだろうか。
 総選挙で民主党が勝利し鳩山内閣が成立したのは、2009年(平成21年)9月。その半年前、当時の民主党代表であった小沢一郎氏の公設秘書が逮捕される。

 2009年3月3日、小沢一郎の資金管理団体「陸山会」の会計責任者兼公設第一秘書が政治資金規正法違反の容疑で逮捕され、東京地検特捜部により、東京にある小沢の資金管理団体「陸山会」事務所の家宅捜索が行われ、ついで2009年3月4日には小沢の地元事務所も捜索された。(Wikipedia『西松建設事件』)

 当時は『西松建設事件』などと呼ばれていたが、これが延々と続く『陸山会事件』の始まりとなる。これが、秋に総選挙を控え自民党の劣勢が伝えられる渦中で行われた「国策捜査」であったことは、今では明らかになっている。東京地検で、特捜部副部長としてこの捜査を指揮し、小沢一郎を起訴に持ち込むため、捜査報告書の偽造まで行った張本人が、この斎藤隆博であった。

 東京地方検察庁特別捜査部副部長のときに、陸山会事件の捜査の一翼を担ったものの当時の部下であった田代政弘らと共謀して虚偽の捜査報告書を検察審査会に提出し、小沢一郎の起訴相当議決をさせたとして、偽計業務妨害罪で健全な法治国家のために声をあげる市民の会から告発された。しかし、齋藤は不起訴となった。(Wikipedia『斎藤隆博』)

 "Wikipedia"は、「齋藤は不起訴となった」と一言で済ましているが、その顛末はあちこちのサイトで詳細に記されている。いまそれに触れる余裕は無いが、一度検索して見られると良いだろう。斎藤隆博は、長時間尋問による自白強要、供述調書の偽造、もう何でもありの男なのである。とにかく逮捕せよ、自白に追い込め、供述調書は捏造しろ、証拠は作るものだ、 …… 、日本の司法制度をそのまま人格化させたような人物なのだ。

 国政選挙の結果、第一党となった党の代表者に対しても、旧来の保守・自民党に対する抵抗勢力という理由だけで、これだけのことをしでかすのが東京地検なのだ。その斎藤らが「ブラジル出身の一外国人に対して紳士的に振る舞った」などと信じるのは、よほどのお人好しであろう。

 前書きのつもりの一言が長くなってしまった。
 本筋に戻ろう。11月19日の記事に続いて、どんな記事が出てくるのか? 


うん? 『司法取引』だと?


 翌、11月20日の記事には、我が国の刑事事件報道における前代未聞の文言が出現する。
 それを朝日の記者はサラッと書き流している。
 政府・官権から発表されることを、鸚鵡返しにそのまま伝えることに慣れきってしまって、どんなことが述べられていようと、言葉の意味に反応する感受性まで喪失してしまっている、としか思えない。

『朝日新聞DIGITAL』2018年11月20日 7時13分
〔見出し〕日産のカリスマ、司法取引で捜査のメス 異例の逮捕容疑
〔リード〕日産自動車、仏ルノー、三菱自動車の会長として経営を束ね、剛腕経営者として世界的に知られたカルロス・ゴーン容疑者(64)が逮捕された。報酬を有価証券報告書に過少に記載し、他にも不正行為があるとされる。捜査には日産社員が協力したとみられ、見返りに刑事処分を軽くする司法取引制度が適用された。10年以上トップに君臨した「カリスマ」は失墜し、激震で巨大自動車グループの経営が揺らいでいる。

  https://www.asahi.com/articles/ASLCM76NRLCMULFA042.html?iref=pc_rellink_03

 報道文書として最低である。
 ゴーン氏のことを「剛腕経営者」「カリスマ」だなんて、「激震で巨大自動車グループの経営が揺らいでいる」だなんて、言語感覚の古さと陳腐さには呆れるばかりだが、そのようなエロ芸能誌的・扇情的表現に依存することで、記者は客観性を喪失している。だから「司法取引」という言葉が使われていることの重大性を見失うのだ。
 少しは覚醒したまえ。「司法取引」という言葉、これ、「刑事事件報道における前代未聞の文言」ではなかろうか?

 「司法取引制度が適用された」と聞かされて、ああそうですかと納得できる人など一人もいないだろう。司法取引は、アメリカ映画の犯罪・マフィアものでしばしば出現するので、言葉ぐらいは知っている人が多いだろうが、わが日本では馴染みのないものである。何でもアメリカの真似をしたがる日本の政治権力は、2018年6月1日からこの制度を実効化させた。

 その第1号適用例は、同年7月20日の "MHPS事件" だとされている。ところがこの事件、あちこちの法律事務所や弁護士さんのHPを散見するかぎり、はなはだ評判が悪い。『東京合同法律事務所』さんのHPを、そっくりコピーさせていただく。
  https://www.tokyo-godo.com/blog/2019/05/post-87-680286.html

 2018年7月20日、東京地検特捜部は、三菱日立パワーシステムズ(MHPS)によるタイでの火力発電所建設に絡み、同社元幹部3人を不正競争防止法違反(外国公務員に対する贈賄)で在宅起訴するとともに、同社については、東京地検特捜部に対して捜査協力をした見返りとして不起訴とした。
 しかし、そもそも「司法取引」を導入した目的は、法制審でもさんざん議論されたことだが、組織犯罪における黒幕処罰の必要性だったはずである。それゆえ、適用が想定される事例としてあげられていたのが、いわゆるオレオレ詐欺における末端の「受け子」「出し子」に恩典を与えて、実際に指令を下して多額の利益を貪っている黒幕を処罰するというものであった。ところが、MHPS事件は、要するに、現地の役人に賄賂を贈って事業継続をしようとした役員個人を法人自ら告発し、検察に捜査協力をすることで、法人そのものが恩典を得るというものである。法人処罰を逃れるため、その法人の事業遂行のため動いてきた個人の処罰に法人が協力するというのであるから、「トカゲの尻尾切りのために制度が利用された」との批判も、あながち嘘ではない。いずれにしても、当初の制度目的が黒幕処罰であったことからすれば、適用事例第1号がそれとはまったく違った目的のもとでの適用となったことは間違いない。


 さすが専門家の書く文章ですね。私のような「筋金入りの素人」にも分かりやすい。「司法取引」とは、犯罪者集団のなかでも「弱い立場の個人」が司法と取引をして、その証言によって、「悪の張本人・黒幕」を検挙しようとする仕組みである。この「黒幕処罰の必要性」が "MHPS事件" では、それが逆になっていた。

 そして、司法取引適用の第2号がこの「日産・ゴーン事件」であった。今度の場合も、司法と取引をしたのは「日産という企業」であった。もっとも日産は、「外国人執行役員」と「日本人元秘書室長」の2人に、特捜部に司法取引の申し入れをさせていて、日産という企業自体が司法取引の申し入れ者ではないという体裁だけは保っているが、いかに奇策を弄そうとも、実質上、司法取引を申し入れたのは「日産という企業」である。
 ここから、司法取引で検察と同調した日産側の人間が、同じ事件の被告としてゴーン氏・ケリー氏と同じ被告席に並ぶ、という奇妙な事態が発生する。(まだ、公判は開始されていなかったが)
 このことが、事態を混乱させ、ゴーン氏・ケリー氏に著しく不利に働くことについては、後で改めて述べる。

 この無理矢理の司法取引でゴーン氏の告発が開始された経過から見ても、「確たる証拠とともに内部告発した人物はいなかった」ことが確認できると思う。私が疑ったように、この時点で検察は「有価証券報告書云々 …… 」以外の具体的証拠を何もつかんでいなかったのだ、と考える方が自然である。


うん? まだ受け取っていない報酬に?


 ゴーン氏拘束の5日後、今度もビックリ仰天の報道がなされる。
 これも、朝日の記者はサラッと書き流すのだ。

『朝日新聞DIGITAL』2018年11月24日 5時03分
〔見出し〕退任後の報酬50億円隠蔽か 日産、ゴーン容疑者と契約
〔リード〕日産自動車の会長だったカルロス・ゴーン容疑者(64)が役員報酬約50億円を有価証券報告書に記載しなかったとして逮捕された事件で、ゴーン前会長が退任後に報酬を受け取る契約書を日産と交わし、毎年約10億円、5年度分で約50億円が積み立てられていたことがわかった。東京地検特捜部はこの契約書を押収。将来の支払いが確定した報酬として開示義務があり、事実上の隠蔽(いんぺい)工作と判断した模様だ。

  https://www.asahi.com/articles/ASLCR5K9ZLCRUTIL00T.html

 11月19日の、ゴーン氏拘束時の容疑は、「2010〜2014年度の5年度分」報酬の過少申告というものであった。これが立証されるか否かは分からないが、とにかく「すでに起こった事実」を巡る係争である。しかるに、ここで新たな罪状として付加されているのは「退官後に受け取る報酬についての約束」であり、当然のことながらまだ一銭の支払いも行われていない。そのような現時点では約束事でしかないものが犯罪となるのだろうか?

 記事は、「役員報酬約50億円を有価証券報告書に記載しなかったとして逮捕された事件で」と書き流しているが、検察が、

  a) この「50億円過少申告」の立証に自信を得たので、
    さらに「未領収分」まで罪状に付加しようとしたのか、
  b) あるいは、「50億円過少申告」立証の目処が立たないので、
    急遽「未領収分」の話にすり替えようとしたのか、 …… よく分からない。

 私は、b)の「50億円過少申告」立証の目処が立たないので、急遽「未領収分」の話にすり替えようとしたのだと確信する。何故なら、ゴーン氏は合計4回逮捕されているわけだが、その都度、発表される罪状が、コロコロと変化するからだ。

 この「まだ受け取っていない報酬授受の約束事が、刑事罰に問えるのかどうか」という問題につき、専門家の意見を聞こう。前項と同様「筋金入りの素人」の私がとやかく言うのと違って、スッキリとご理解いただけると思う。私なんぞが、何も付け加える必要はありません。
 もと元検察官で現在は弁護士の郷原信郎さんが、この記事の翌日、次のように述べている。
  https://news.yahoo.co.jp/byline/goharanobuo/20181125-00105394/

 朝日の記事では、この「支払の約束」について、「特捜部は、これを事実上の隠ぺい工作だと判断。契約料を受け取るのが退任後だとしても、契約書は毎年交わされており、その都度、役員報酬として報告書に記載し、開示する義務があると見ている模様」としているが、果たして開示義務があるのかどうか、重大な疑問がある。
 少なくとも、まだ支払を受けていない退職後の「支払の約束」であれば、それを「役員報酬」と呼ぶとしても、現実に受領する役員報酬とは、大きな違いがある。最大の違いは、支払を受けることの確実性だ。
 過去に現実に受領した役員報酬は、その手続きに重大な瑕疵があったということでもない限り、返還ということは考えられない。一方、退任後の「支払の約束」の方は、退任後に顧問料などの「別の名目」で支払うためには、支払を開始する時点で日産側で改めて社内手続を経ることが必要となる。不透明な支払は、内部監査や会計監査等で問題を指摘される可能性もある。また、仮に、今後、日産の経営が悪化し、大幅な赤字になってゴーン氏が引責辞任することになった場合、過去に支払う契約をしていたからと言って、引責辞任した経営トップに対して、その後に報酬を支払うことは、株主に対して説明がつかない。結局、「支払の約束」の契約は、事実上履行が困難になる可能性も高い。
 そういう意味では、退任後の「支払の約束」は、無事に日産トップの職を終えた場合に受け取ることの「期待権」に過ぎないと見るべきであろう。多くの日本企業で行われている「役員退職慰労金」と類似しており、むしろ、慰労金であれば、社内規程で役員退職慰労金の金額あるいは算定方法が具体的に定められ、在職時点で退職後の役員退職慰労金の受領権が確定していると考えられるが、実際に、慰労金の予定額について、有価証券報告書に役員報酬額として記載している例は見たことがない
 有価証券報告書の虚偽記載罪というのは、有価証券報告書の重要な事項に虚偽の記載をした場合に成立する。退任後に「支払の約束」をした役員報酬は、記載義務があるかどうかすら疑問なのであり、少なくとも「重要事項」に当たらないことは明らかだ



 良いでしょうか? 今までの流れを確認しておきます。

1) 確たる証拠もないまま、とにかく逮捕。長時間の取り調べによる自白強要。
2) 任意同行の段階だったのに、マスコミに身柄拘束をリーク。極悪人逮捕ショーを演出。
3) 成立したばかりの司法取引制度の、本末転倒的利用。
4) まだ授受の行われていない「支払の約束」を強引に犯罪とみなす。

 途中経過をポイントで現せば、
  東京地検 「0」 ― カルロス・ゴーン 「4」  と云うことになる。
 さて、その後は、どう展開するのか。

 −−【その3】了−−  



     
 
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